【超硬工具の材料解説】タングステンと超硬の特性・リサイクル事情まで徹底解説!

切削工具は、製造業の現場において「モノづくり」を支える縁の下の力持ちです。その中でも特に重要な役割を果たすのが「超硬工具」。この記事では、超硬工具に使われる材料やその特性、原料となるタングステンについて詳しくご紹介するとともに、今後ますます重要となるリサイクルの現状と課題についても解説します。

1. 切削工具の材料の種類

切削工具の材料には、超硬、ハイス(高速度鋼)、セラミック、CBN(立方晶窒化ホウ素)、ダイヤモンドなど様々な種類があります。

それぞれの材料には特有の性質と得意分野があります。例えば、ハイスは比較的安価で靭性に優れ、再研磨が容易なことから、汎用性の高い切削工具として重宝されています。セラミック工具は高温でも硬さを保ちますが、衝撃に弱いため安定した切削環境が必要です。ダイヤモンドやCBNは非常に高硬度で、非鉄金属や超硬合金の仕上げ加工などに用いられています。

そして、最もバランスの取れた性能を発揮し、多くの加工現場で採用されているのが「超硬工具」です。高い硬度と耐摩耗性を兼ね備え、長寿命かつ高効率な加工を実現します。

2. 超硬とは

「超硬」とは、主にタングステンカーバイド(WC)を主成分とし、コバルトなどの結合材と共に焼結して製造される金属複合材料です。

その最大の特徴は、非常に高い硬度と耐摩耗性を持つこと。硬さはダイヤモンドに次ぐレベルで、鉄系材料や難削材の高精度な加工が可能です。さらに、熱による変形にも強く、寸法精度の厳しい加工にも適しています。そのため、自動車のエンジン部品、航空機の構造材、金型の精密加工、トンネル掘削機のカッターなど、あらゆる産業分野で広く使用されています。

ただし、靭性(割れにくさ)には限界があるため、工具設計や使用条件には注意が必要です。

3. タングステンとは

超硬の主原料であるタングステンは、元素記号「W」、原子番号74の金属で、その名はスウェーデン語で「重い石」を意味します。実際、比重は19.3と非常に高く、金や鉛よりも重い金属です。

タングステンの最大の特徴は、金属の中で最も高い融点(約3,400℃)を持ち、高温環境下でも優れた強度や硬度を保持できる点にあります。加えて、弾性や引張強度にも優れ、熱膨張係数がガラスに近いため、熱変形に強いという特性も持っています。

こうした物性から、タングステンは主に超硬工具の原料として使用されており、炭素と結びつくことで「タングステンカーバイド(WC)」となり、切削工具や耐摩耗部品に用いられています。

また、フィラメントや電極材料、医療用X線機器、放射線遮蔽材など、電子・医療分野にも幅広い用途があります。近年はLEDの普及により、タングステンを用いた照明部品の需要は減少傾向ですが、依然として製造業に欠かせない重要なレアメタルです。

4. タングステン原料としての超硬工具リサイクルの重要性

タングステンは限りある資源であり、日本ではそのほとんどを輸入に依存しています。特に、中国が世界の主要供給国であるため、国際情勢の影響を受けやすいという課題があります。こうした背景から、使用済みの超硬工具を原料として再利用する「リサイクル」が、近年ますます注目されています。

実際、日本国内における超硬工具スクラップのリサイクル量は、2018年には1,003トンに達し、安定的な回収が続いています。しかし、同年のリサイクル率は12.7%にとどまり、資源循環の観点からはまだ改善の余地が大きい状況です。

なぜリサイクルが進みにくいのか。理由の一つは、日本で回収されたスクラップの多くが海外へ流出していることにあります。超硬工具スクラップは高値で取引されるため、回収業者がより高い価格を求めて海外市場に販売するケースが少なくありません。

とはいえ、日本国内にはBtoB市場として安定したリサイクルスキームが確立されつつあり、大手工具メーカーや金属リサイクル業者が協力し、使用済み超硬工具の回収・再資源化を進めています。また、超硬工具に含まれるタングステン含有率は80%以上と高い割合であるため、鉱石からの抽出よりもリサイクルの方が効率的かつ環境負荷が小さいというメリットもあります。

さらに、資源価格の変動リスクに対応するためにも、リサイクル原料の安定供給は中長期的な競争力確保に直結します。今後は、ユーザー側の理解と協力を促進し、回収ネットワークをさらに強化していくことが求められます。

5. 超硬工具スクラップの市況

超硬スクラップ価格は高騰中

コロナ禍の前後市場買取価格1,600円/kg前後で取引されていた超硬スクラップは現在3,800円/kg前後で取引されており、これは過去10-15年で見てもかなり高い水準で取引がされている現状にあります。この価格高騰の背景には昨今の円安や海外市場からの需要の増加が大きな要因であることに加えて、スクラップとして買取される超硬工具を分別し工具として再販する流通経路が存在することにも起因していると考えられます。

例えば半導体部品の製造工程等においては、その品質保全のために切削工具の使用回数が厳密に取り決められている場合があるため、ほとんど摩耗していない工具も使用済み工具としてスクラップに回されてしまうことが有ります。そうした工具は荒加工に再使用するには十分な状態が保たれているため、スクラップとしてまとめて買取された後に分別され中古工具として再販されるケースが存在します。当然中古工具としての販売価格はスクラップとしての販売価格を上回るため、日本国内で超硬スクラップとして買取される際の価格を押し上げる要因の一つとなりえます。

超硬スクラップの流通経路

国内で買取・回収された超硬スクラップは、メーカー等が保有するタングステンリサイクル機能を持つ日本国内の工場にまとめられてタングステン粉末に再生産される経路と、国内では加工を行わずにそのまま海外へ輸出される経路とがあります。

実際のところは、前述した海外市場からの強い需要や円安の影響によって価格面では海外に輸出した方が採算がはるかにいいため、多くの超硬スクラップが海外へと輸出されていることが推測されます。もちろん、輸出の中には日本企業が出資している海外処理工場へ輸出されているケースもあるかとは思いますが、現状海外への輸出を阻む市場要素は見当たりません。

重要資源の安定確保が大切だということを国内工具・材料メーカー、資源商社が中心となって周知し、多少の機会損失を負っても日本国内で資源循環ができるよう努めるというのが現時点での現実的な方策であると考えられます。

まとめ・関連記事のご紹介

超硬工具は、その優れた特性から、製造業の現場において欠かせない存在です。そしてその中核を担っているのが、タングステンという金属です。高性能な工具づくりには欠かせないタングステンですが、その資源は限られており、今後の供給リスクにも備える必要があります。

そのため、今後ますます重要性を増すのが「リサイクル」です。使用済みの超硬工具を資源として再利用することで、限られた資源を有効活用し、持続可能なものづくりへとつなげていくことができます。弊社も、そうした資源循環の一端を担う存在として、ユーザー様とともに持続可能な社会づくりに貢献してまいります。

今回は超硬及びその主原料であるタングステンと、そのリサイクルの重要性について解説しましたが、以下の記事でもとても分かりやすく説明されています。

タクミセンパイ|切削工具の再研磨・リサイクルとSDGs

タクミセンパイ|超硬切削工具の材料であるタングステンを有効活用することの重要性

タクミセンパイとは

上記の記事が掲載されているのが、切削工具と切削加工業界に特化した専門サイト「タクミセンパイ」です。

タクミセンパイは2020年に開設され、切削工具・切削加工業界における専門家・インフルエンサーとして認知されています。切削工具・切削加工業界について情報を収集する際は、ぜひご利用ください。

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